[読書メモ] 子育ての大誤解

「子育ての大誤解 重要なのは親じゃない」という本を読んだ。
原著は The Nurture Assumption で、和訳は 上巻下巻 で構成される。また、読んだのは新版。

動機など

この本は honz の橘玲さんの記事で知った。

子育てが子どもの人生に決定的な影響を与えるとしたら、子どもはなぜ、親が満足に話せない言葉を先に覚えるのだろうか。その理由はひとつしかない、とハリスはいう。子どもには、親とのコミュニケーションよりはるかに大切なものがあるのだ。それが「友だち関係」 だ。
https://honz.jp/articles/-/44298

インターネットなどで「親が子どもにしてあげられるのは、環境を用意することだけ」という意見をよく見る。
それが掘り下げられている本なのかな、という興味で手に取った。

感想など

  • 文体が少し難しく、構成も事例紹介が大半なのでかなり長く感じた。ただ、そのおかげで説得力はある。
  • 基本的に「子育て神話」の否定が主張の軸で一貫しているため、理解しやすかった。
  • 第 11 章「子どもたちにとって学校とは」内の「教室内の集団性」節が良かった。
  • あえて一言でまとめると「子どもの長期的な性格は、所属する社会的カテゴリ(の文化)に強く影響される」となる。

気になった内容メモ

  • 子どもにとって初期の社会化とは「親のように行動してはならない」ことを学ぶのが中心(大人をそのまま真似すると危険だったりするから)
  • 親子間の相関の要素のうち、半分程度は遺伝によるもの。しかし相関の割合となると多くの場合で 0.5 をはるかに下回っている。
  • 親の生活態度(仕事の有無や読書量、飲酒の習慣など)は子どもの長期的な性格にはわずかな影響しか及ぼさない。住環境(部屋の広さや整理具合)も同じ。家庭状況(出生順位や兄弟の数、片親・同性愛者かなど)でさえ影響しない。
  • 人間は所属する社会的カテゴリに合わせて言動・行動を変化させる。しかしそこで獲得した性格は、そのカテゴリ内においてのみ発現する。学校での性格は学校でのみ現れる、というように。
  • 社会的カテゴリは概念であるため、呼称がなくても確立する。また、自身が属するカテゴリは頭の中でいくらでも変えることができる。無意識のうちに選ばれやすいのは、そのとき顕著な違いのあるカテゴリである。子どもは特に「男の子」と「女の子」を選びやすい。
  • 人を複数の集団に分けることで「集団対比効果」が生まれる。そしてその集団の特徴(と認識しているもの)は強化される。ただし、順応したい気持ちと特殊化を図りたい気持ちの両方を抱えるため、集団の特徴以外の部分では逆に違いが広がる。
  • 学校では社会的カテゴリが多数存在しその集団間で対比効果が働くため、それぞれの違いが拡大する。男女、能力別クラスなど。そして自分の属する集団(われわれ)に好意をもち、ほかの集団(彼ら)に敵対することもある。その結果、実際の性格や行動、能力にまで影響する。
  • 親にできることは、家庭の外でも役に立つ知識と鍛錬の提供。また、仲間集団に伝えないもの(たとえば料理や家庭の営み方)、もしくは仲間集団の中で同調を強いられにくいもの(政治的姿勢や目指す職業など)について。
  • 親が子どもの仲間選びに影響を与えること自体は可能。引っ越しや学校選びなど。しかしどのような影響を及ぼすかは予測できない。また、その影響力は子どもの成長とともに小さくなる。
  • 自尊心は高すぎ/低すぎのどちらも良くない。また、親に愛されることで高められた自尊心は家庭内でしか有効ではない。一般的にいう自尊心は所属集団での地位によってもたらされる。