いじめを生む教室 という本を読んだ。
本の背景・概要など
著者は 荻上チキ
氏。
いじめとは何か。どのような環境で発生しやすいのか。発生を予防するには。などについて述べた本。
2018 年発刊で、大津市中2いじめ自殺事件
後に大津市が調査したデータの参照が多い。
感想など
どの章でも、研究や調査のデータから導き出される論を展開しているため、妥当と思える内容が多い。
まったく知らなかった情報も多く、子を持つ親としては読んで良かったと思う。
特にいじめがなぜ起こるのか、どうすれば減らせるのかについては認識が変わった。
気になった内容メモ
いじめ対策には、心理的・環境的アプローチが必要である
- これまでは心理的アプローチばかりだった。
- データから導き出した対策ですらなかった。
- 「いじめはよくない」というだけの道徳教育など。
- 今後は環境的アプローチも必要。
- 学校側の改善。
国ごとにいじめの傾向が異なる
- 国ごとに教室空間などの環境要因が異なるため。
- 日本のいじめは以下の特徴がある。
- 教室で休み時間に発生することが多い。
- 暴力系ではなく、コミュニケーション操作系が大半である。
いじめを受けたら学校から逃げろという論について
- 緊急の対応としては良い。
- だが本来、学校側を改善する方向に議論が向かうべき。
- また、逃げたとしても学校以外の教育に選択肢が少ない。
- そういった対応など含め、自己責任になってしまうのは望ましくない。
9割の人が何らかのいじめをするし、される
- 「いじめ」という言葉ではなく「陰口を言われた」などの言葉を使ったアンケートを実施した。
- それらの行為を一度でも受けたことのある人は 9 割にのぼった。
- それは加害側も同じ程度の割合だった。
- なので、いじめる側といじめられる側という二項対立では把握できない。
いじめの時期
- いじめは小さく始まりだんだん残虐になるので、早期発見・対応が重要。
- いじめの発生は 9 〜 11 月がピーク。夏休み明けのストレスが要因か?
- ほとんどのいじめは 3 ヵ月で終わるが、中学生は長期化することがある。
相談は効果的である
- いじめを受けたとき、誰にも相談しない人が 3 割ほどいる。
- 理由は解決に結び付かないと思っているから。
- しかし、相談した人の 7 割がいじめは減ったかなくなったと答えている。
- なので、「いじめをするな」ではなく具体的な解決イメージを示せると良い。
- 「いじめが起きたときに学校側はどう解決していくのか」のフローを説明しておくなど。
いじめはストレス解消の側面がある
- 学校では、個人が自分好みのストレス発散をできない。
- なので、「それなりにおもしろいゲーム」としていじめをしてしまう。
- しかし、そういう人が別のストレス発散法を手に入れると、いじめをしなくなることがわかっている。
いじめの少ない教室にするためには
- わかりやすい授業をする。
- 多様性に配慮する。
- 自由度を尊重する。
- 自尊心を与えていく。
- ルールを適切に共有していく。
- 教師がストレッサーにならず、取り除く側になる。
- 信頼を得られるようにコミュニケーションをしっかりとる。
いじめを受けたときの対応
- 事実の情報を記録し続けることが重要。
- いつ・誰から・どんな被害を受けて・誰が目撃していたかなど。
- 本人が記録できない状況であれば、相談を受けた大人がつける。
- いじめの早期対応は複数の教職員で行うことが法律で決められている。
- さらに、教職員だけでなくスクールカウンセラーや地域の人を含めた対策チームを常設しなければならない。
- そのチームはヒアリングやアンケートを通しいじめを調査する。
被害率・加害率の傾向について
- 学力が高い学校・生徒は加害率が高く、学力が低い学校・生徒は被害率が高い。
- おとなしくかつ周囲に合わせるのが苦手な生徒は被害率が高い。
- 「発散できないストレスを抱えやすい」かつ「ソーシャルスキルが高い」人は加害のハイリスク層である。
- 被害のハイリスク層は以下。
- セクシャルマイノリティ
- 吃音の症状
- 発達障害
- 外国人
教師を取り巻く環境
- 2016 年の日本では、教師の多忙化が深刻になっている。
- 睡眠時間も少なく、ストレスがたまりがちになる。
- そうすると当然、きめ細かな指導はできず不機嫌な行動もとってしまう。
- なので、いじめ対策を強化する前に、まず教師の労働環境改善や担任を増やすなどの施策が必要。
- 一方で、授業づくりは発展を続けている。
- 研究や調査でより良い指導方法が考えられているので、教師もそれを学習すると良い。
- そのためにサバティカル制度の導入を筆者は提案している。